『極彩色』の中でいちばん好きな曲

フェードインしてくる音に、広い空間を感じる。そこへスネアとハイハットの刻みが入り、世界の輪郭が少しずつ現れてくる。音数が増すにつれて、期待も膨らんでいく。

それに対して、メロのれをるは比較的抑揚を抑えて歌う。その声がサビで一気に伸び、突き抜けるようなハイトーンへ届く。この瞬間の高揚感がたまらない。メロディが強くて、かっこいい。まずは、音として好きという言葉に尽きる。

「ロジックエージェント」は、2015年のアルバム『極彩色』の6曲目。作詞・作曲・編曲をnikiが手がけ、れをるが歌っている。(公式作品情報)

歌詞の意味は、すぐには腑に落ちなかった。それでも、声の重なりやMVの景色を手がかりにしていくと、答えを求め、自分を見つけてほしいと呼びかける声が、少しずつ違って聴こえてきた。

重なる声と、パラレル仕様

歌詞にある「共鳴を逃れてる パラレル仕様」という言葉から連想したのが、曲の随所で耳に残る、れをる自身のハモリだった。

同じ人の声が、異なる音の高さで並んで進んでいく。その聴こえ方に、別々の場所から同じ歌を歌う姿を重ねたくなる。

同じ声が、異なる高さで並んで進む

タイトルのロジックは論理、エージェントには代理人という意味がある。そこから、仕組みによって動き、人の思いを声にするボーカロイドを思い浮かべた。実際、この曲にはnikiによるLily版もある。同じ歌が、人間とボーカロイド、それぞれの声で存在している。(Lily版について)

2014年に発売された、れをる版の『No title−』とボーカロイド版の『No title+』も、その関係を考える手がかりになる。「ヒビカセ」をれをるとミクがそれぞれ歌っているように、同じ歌を共有しながら、二つの声は別々の音源の中にいる。そこには、一緒に歌うこととは違う距離がある。(活動年表)

「ヒビカセ」では、画面を隔てた存在が、自分の声を覚えていてほしい、愛してほしいと求める。その願いを重ねると、「ロジックエージェント」の呼びかけにも、声を届けるだけでは確かめられないつながりを求める、切実さが感じられる。(「ヒビカセ」の歌詞)

後年、2024年の武道館公演「No title」では、Reolとミクが「ヒビカセ」をデュエットした。2014年には別々の音源にあった声が、十年後に同じステージで交わる。この共演を知る今だからこそ、二つの声の距離について思いを巡らせたくなる。(公式紹介)

別々の音源にあった声が、十年後に同じステージで交わる

巻き戻される景色の中へ

ただ、歌詞を読み進めると、隔たりは人間とボーカロイドの間だけにあるわけではなさそうだ。遠ざかった日々や薄れる記憶が描かれ、その向こうにいる自分を見つけてほしいと、語り手は呼びかけている。

ここで手がかりになったのが、お菊によるMVだった。

イントロには、曲全体の映像を巻き戻すような逆再生が置かれている。初めて見る景色なのに、映像の中ではすでに一度過ぎ去ったものとして現れる。その始まり方が、記憶をたどり直す動きに思えてくる。

A・Bメロでは、円柱状の空間を通り抜けていく。ワームホールや、宇宙の時間の流れを筒状の広がりで示した進化図を連想する。そこを進む動きが、場所だけでなく、時間の中を移動しているようにも見える。

円柱状の空間を、時間の中を進むように通り抜ける

サビでは、空と陸の境目がわからない世界が開け、雲が高速で流れていく。歌詞にある「脳裏のパノラマ」と重ねると、この広大な景色も、頭の中に広がる記憶の世界として受け取れる。

その中を進みながら、誰かを探している。声を思い出すことはできても、同じ時間へ戻れるわけではない。記憶の中にいる相手と、今ここにいる自分。その隔たりにも、この歌のパラレルな関係が重なってくる。

君が覚えている僕と、今の僕

もう一つ、楽曲「No title」の歌詞を重ねると、自分自身の変化にも目が向く。

「No title」では、それまでの自分が失われ、相手に届く声さえ、自分にはわからないものへ変わっていくと歌われる。相手との関係だけでなく、自分自身も同じ姿ではいられない。(「No title」の歌詞)

「ロジックエージェント」で告げられる別れは、相手にとって大好きな人、大切な人に関わるものだ。その人をかつての自分と重ねると、誰かに愛されていた頃の自分への別れとしても聴こえてくる。

君の記憶にいる僕と、今ここにいる僕は、もう同じではない。それでも、その変化の中に自分を見つけてほしい。過去と今の二つの姿が、ずれたまま存在しているように思える。

過去と今の二つの姿が、ずれたまま

この読みを具体的にしてくれるのが、2番のサビの終わりだ。

記憶の向こうに自分を探し、その目に映してほしいと歌う場面で、カメラはれをるを思わせる人影に追いつくように進んでいく。

その人影を歌の中の僕と見るなら、カメラは呼びかけを受け取る君の目になる。声を聴いていた自分が、今度はその声の主を見つける側にいる。記憶の奥にある姿へ近づき、もう一度目を向ける動きとして、この場面が見えてくる。

カメラは、呼びかけを受け取る君の目になる

見つけてほしいという願いに、見る側の視線が応じる。その関係が、歌詞の呼びかけを身近なものにしていると思う。

変わっていく僕を、見つけてほしい

2番のサビでは、共鳴に代わって「証明」という言葉も現れる。相手と響き合えているのか、自分が相手にとってどんな存在なのか。声が届いたとしても、その答えまで確かめられるとは限らない。

そして、心をつなぐ糸や音が描かれるサビでは、つながれるのは相手の心だった。それが最後には、語り手自身の心へと変わる。歌って誰かに届けようとする側もまた、その相手を必要としているように読める。

ここにも、相手の歌に支えられた自分が、今度は歌を返そうとする「No title」と通じるものを感じる。nikiが書いた「ロジックエージェント」と、れをるが書いた「No title」。れをるの歌声で二つの曲を聴くと、そこに共通する、歌う側も誰かとのつながりを求める姿が見えてくる。

そして、最後に歌われるのは「全てを書き換えていて」という言葉だ。ここには、変わっていく自分も含めて見つけてほしい、という願いを感じる。

君の記憶にいる僕と、今ここにいる僕が違っていても、その目を向けてほしい。そこで見つけた姿も、やがて変わっていく。それでも、そのたびに今の自分と出会い直してほしいのだと思う。

Reolは『第六感』のインタビューで、「作ったことのないものを発明したいし、アップデートしていきたい」と語っている。さらに2022年には、それまでの曲作りを振り返り、「とにかくずっと違う引き出しを開け続けてきた」とも話している。(Billboard JAPAN/THE FIRST TIMES)

一つのスタイルにとどまらず、まだ知らない自分の表現を探し続ける。その姿に、変わっていく自分も、そのたびに見つけてほしいというこの曲の願いが重なって聞こえる。新しい作品に触れるたび、こんなReolもいるのかと思わせてくれる彼女に、「ロジックエージェント」はよく似合う。

そのたびに、今の自分と出会い直す