ミュー タントの 海に 溶けていたい
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いちばん
イントロが流れた瞬間、はっと耳を奪われる。曲全体を包む切なさが、しっとりと優しく染み込んでくる。聴いているうちに、その中を漂うような感覚に引き込まれていく。ずっと切ないのに、そこにいるのが心地いい。
夜の車内で流れた時、あまりに気分がよくて、曲が終わるまで降りられなかったことがある。この曲を聴くと、夜のドライブに出たくなる。もう少し、その音楽の中にいたくなるのだと思う。
「ミュータント」は、ミニアルバム『第六感』に収録された、Geekboyとともに作り上げられた曲だ。ゆったりと流れるメロディに、詩を語るような歌い方が重なる。Reolは、強くラップするのではなく、詩の朗読に近いアプローチで情緒を持たせたと語っている。また、ハスキーな声とかわいらしい声を行き来し、一人二役のような気持ちで歌ったとも話していた。声の表情を変えながら、一曲の中を漂わせてくれるところにも惹かれる。(realsound.jp)
題名の「ミュータント」は、突然変異体を意味する。Reolは、人が恋に落ちると、相手に合わせて服装が変わるように、それまでの自分から変わってしまうことを、突然変異に重ねたという。誰かを好きになることによって、自分自身まで違うものになっていく。その変化を歌った曲だ。(e.usen.com)
けれど、自分がこの曲から感じるのは、変わっていく喜びだけではない。以前の自分ではいられなくなることへの葛藤や迷いも、その切なさに重なっている。そして、その心象風景にぴったりだと感じる場所がある。芝浦ふ頭のループ橋から、レインボーブリッジにかけての夜景だ。
首都高速道路ふたりで
人熱れすり抜け埠頭へ
この二行を聴くと、首都高から街の熱を抜け、海沿いへ向かう景色が浮かぶ。その行き先を、自分は芝浦ふ頭に重ねている。さらに歌詞には、こんな問いがある。(uta-net.com)
このまま何処かへ逃げたら
隔絶された世界線?
海を挟んで向こう側へ伸びるレインボーブリッジが、今いる世界から、別の世界へ抜け出すための道に見えてくる。ただ遠くへ行くのではなく、ここにいる自分とは違う自分になってしまうような、引き返せなさまで感じる。
「ミュータント」という言葉から突然変異を、そこからDNAの螺旋を連想すると、曲線を描くループ橋の形も重なる。歌詞がこの場所を指していると特定したいわけではない。首都高と埠頭、海の向こうへ伸びる橋、螺旋を思わせる道。それらが一つの景色になって、この曲を聴くときに浮かんでくる。
Lyric Videoに描かれる埠頭の風景も、その連想と重なる。実際に芝浦ふ頭を訪れ、曲に思いを巡らせたこともある。レインボーブリッジの写真を、ReolのInstagramのストーリーで見た記憶もあって、自分の中では彼女の音楽と結びつきの深い場所になっている。
そして、Reolの作品と埠頭の景色を結びつけて考えると、『虚構集』のXFDが思い浮かぶ。芝浦ふ頭をロケ地にしたその映像の記憶が、「ミュータント」から感じる変化の意味を、さらに深くしている。
『虚構集』は、ユニットREOLの発展的解散を経て、Reolとして発表された最初の作品集だ。本人は、解散には最後まで反対していたと語っている。すぐに次へ進む気持ちにはなれなかったけれど、創作意欲が尽きたわけではなかった。その経緯を知ると、新しい活動の始まりを、ただ前向きな再出発としてだけは受け取れない。(realsound.jp)
「エンド」から始まる『虚構集』の中でも、「エンド」「平面鏡」「カルト」は、自分にはとりわけダークに響く。解散を経た時期の作品として聴くと、その出来事にまつわる何かを、あるいはすべてを呪うかのような感情まで感じられる。新しく始めるための作品なのに、そこには、それまでの自分を終わらせなければならない痛みがあるように思う。
「エンド」のMVでは、Reol自身の葬式が描かれている。本人も、過去の延長ではなく新たに再生するために、過去の自分を弔う必要があったと話していた。自分には、その死がタロットの「死」に重ねたくなる。終わりであると同時に、別の自分として始めるための転機でもある。(l-tike.com)
REOLからReolへ。自分には、この転機こそ、彼女にとって最も衝撃的な変化だったように思える。彼女がミュータントへと突然変異したのは、あのタイミングだったのではないか。恋によって変わる自分を歌った言葉に、それまでの活動を終え、以前とは違う自分として音楽を続けていく姿も重ねてしまう。
その読みと響き合うのが、『虚構集』当時のインタビューで語られた「世界線を移ってきたような感覚」という言葉だ。ユニットが解散し、ソロになって曲を作るとき、それまでの人生自体が嘘だったのではないかと感じたという。その言葉を知ると、「ミュータント」の「隔絶された世界線?」という問いにも、彼女が経験した変化の大きさが重なってくる。(realsound.jp)
「No title」に、不安や期待を抱きながら変化を受け入れようとする気持ちを感じる一方で、「ミュータント」からは、容易には受け入れられない葛藤や迷いが伝わってくる。変わったあとも、以前の自分や過ぎた時間への思いが消えるわけではない。そういう切なさとして聴くと、この曲の中をいつまでも漂っていたくなる感覚が、いっそう深くなる。
芝浦ふ頭から海の向こうへ伸びる橋に、以前とは違う自分として進んでいく姿を重ねる。その変化への葛藤まで感じさせる「ミュータント」の切なさが、しっとりと優しく染み込んでくるところがたまらなく好きだ。思いを巡らせながら聴く日も、ただ音の中を漂っていたい日もある。曲が終わるまで車から降りられなかったあのときのように、もう少しこの曲の中にいたい。この曲の海に、ただ溶けていたい日がある。




